山スキー記録    熊谷トレッキング同人

朝日岳ナルミズ沢スキー縦走

山  域:谷川連峰・蓬峠、朝日岳ナルミズ沢(新潟県、群馬県)
期  日:2007年4月14(土)〜15日(日)
参 加 者:宮田、木下 (計2名)



行動記録:
4/14 土樽駅出発(8:20)→林道で板とザックを回収(8:50)→国境稜線(13:45)→
 七つ小屋山(14:50)→白崩避難小屋(16:10)

(天候:くもり後霧)

 蓬沢の林道はほとんど雪が無くなっており、行けるところまで車で入って荷物をデポした。土樽駅まで戻り、さあ出発である。駅の周辺では雪は跡形もない。林道でデポしたザックを担ぐと板の重量が加わってズッシリとくる。しばらく歩くと雪が現れ始め、シール歩行に切り替えた。蓬沢の右岸にある夏道沿いに、蓬峠まで3時間くらいの予定である。しかし、中途半端に雪が消えた道は非常に歩き難く、時間を食ってしまう。雪解け水が勢いよく流れる枝沢をいくつか越えていく。二週間くらい前までならスムーズに歩けたと思われるが、今日の雪の状態はまるで5月初旬の様である。武能岳に突き上げる沢を右手に分ける辺りから左手の尾根に上がった。尾根上は雪が少なく、藪こぎを交えながら高度を上げていくうちに積雪量も安定してくる。

 夏道は沢上部をトラバースして峠に出るが、我々はそのまま尾根を詰めてシシゴヤノ頭からつながる稜線に立った。そこから程なく国境稜線に出るがそこから眺めた景色に愕然とした。「雪がない!」湯桧曽川源頭部をなす斜面は至る所で黒々と地肌を現しており、かろうじて残った雪面もクレバスだらけでギタギタになっている。「滑れるところは有るのか?」憂鬱な気分のまま滑降予定の七ツ小屋沢へ向かって稜線を歩くが、ガスに覆われて視界が効かない。そんな中で斜面に飛び込むのは自殺行為なので、仕方なく稜線通しに清水峠に向かうこととする。七ツ小屋山からの下りではホワイトアウトのため方向が定まらずに苦労するが、GPSの力も借りながら無事に清水峠の白崩避難小屋に到着した。結局、この日の滑降は七ツ小屋山北峰からの約50メートルのみであった。

 避難小屋には予想通り先客なし。狭いながらも快適な小屋を独占できた。強くなり始めた風の音が聞こえる中、暗い小屋の二段棚の上でビールとつまみを開けてささやかな宴会を行う。薄暗くなると共に気温も下がり始め、持っている服を全部着込んだ。ラジオの天気予報によると明日は午前中晴れとの事。少し安心して眠りに就く。外では地鳴りのような音を立てて烈風が吹き荒れていた。

4/15 避難小屋出発(7:00)→ジャンクションピーク(9:40)→朝日岳山頂(10:10/11:00)
 〜ナルミズ沢1350m(11:30/昼食/12:10)→布引山稜線(13:20)〜林道(15:10)
 →宝川温泉(16:30)→バス停16:50

 昨夜の荒れ模様が嘘のように空は晴れ渡っていた。昨日はガスで見えなかったが、朝日岳方面は積雪は十分にあるようだ。風に叩かれてカリカリになった雪面にシールを効かせながら小屋を後にした。ジャンクションピークに向かう稜線にはかなり大物と思われる熊の足跡が続いていた。それを追う様に我々も高度を上げていく。稜線が狭くなってきた所でアイゼン歩行に切り替えた。至る所に雪で隠れたクレバスがあり気を抜けない。右手に見えている、ジャンクションピークから落ちる沢は広々としておりとても快適そうだ。次回は避難小屋をベースにこの周辺を滑りまくるのも悪くないねと話をする。振り返ると白く穏やかな峰々のなかで、大源太山のみが黒い岩壁の荒々しい姿を見せていた。

 ジャンクションピークを越えると朝日岳はもう目の前である。肩に食い込むザックの重みも、板を外すと随分と楽になる。夏は池塘となる雪原をシールで横切ると、今山行の最高峰である朝日岳に到着する。湯桧曽川のむこうには、昨日ガスの中で通過した蓬峠から七つ小屋山そして清水峠への稜線が連なり、その奥には苗場山の平らな山頂が、さらに妙高の山々を見晴らす事ができた。振り返ると布引山の真っ白な姿が目に入る。このところ不安定な天気が続く中、ピンポイントで好天に恵まれた事は実にラッキーであった。山名を刻んだ丸太には、昨夜の風の強さを顕すかのように風上に向かって細かく美しい氷柱が伸びていた。

 さて、景色を堪能した後はいよいよナルミズ沢の滑降である。東に開けた斜面は日差しを受けて適度に緩み、快適なザラメとなっているようだ。夏道のある尾根の北側から大岩を回り込み、そこから深く切れ込む谷へ向かって滑り込んだ。滑り出しの斜度は30度強、快適な大斜面を我々二人で独占である。先頭を交代しながら、真っさらな雪面にシュプールを刻み込んでいった。東西南北どちらを向いても真っ白な雪の壁に囲まれ、何とも言えない雰囲気がある。アプローチの困難さから入る者はまれだが、斜度、大きさ、ロケーションどれを取っても第一級の斜面であった。烏帽子岳に向かう本流に合流する辺りで急に斜度が落ち、そこから間もなく1350m付近で滝が出始める。少し下った、左岸に特徴的な大岩の見える所で滑降は終了とした。滑り出しからここまでクレバスや雪崩の後はなく、きれいな雪面が続いていた。しかし、谷底は大きな雪崩が出ると逃げ場が無く、積雪状態と時期には注意が必要と思われる。

 昼食を済ませると布引山からの稜線へ登り返した。南西向きの雪面は日光を浴びて腐り始めていた。稜線に立つと朝日岳の大きな姿が眼前に迫る。山頂近く、滑り出した斜面にあった大きな岩は、ここから見ると小さな点である。そこから谷底まで滑るとあっという間であったが、離れた場所から目で追うと結構な距離である。稜線が宝川に向かって落ち始める手前、1610mの小ピークでシールを外した。布引沢側は雪庇ができており、下流の板幽沢はもう流れが出ていそうなので尾根沿いに下ることとする。上部は快適な林間滑降であったが、後半は地獄であった。濃い藪を縫うように下っていくと、雪解け水でできた小沢が現れ始める。かろうじて残るスノーブリッジをおっかなびっくり越えていく。ツボ足になった所で、ついに私が踏み抜いてブーツを濡らしてしまった。さらに下ると雪が無くなり、最後は板を持って歩き林道へと出た。この辺りの状況を考えると、もう二週間くらい早ければずっと楽であったと思われる。

 林道は一部で雪が残るものの、板幽橋を越えてからは完全な歩きとなる。林道までの下りですっかり時間を食ってしまった。16時50分発のバスを逃すと水上からの電車に間に合わなくなってしまう。疲れた足に鞭を打ち、林道を早足で歩いていった。宝川温泉を過ぎるとアスファルトとなる。兼用靴で歩くため靴擦れが辛いが、時間がないのでさらにスピードアップしてゆく。国道に出る直前でバスの屋根が見えたが、間一髪で乗り込むことができた。

 土樽を出てから、一度も人の姿を見ることはなかった。今年は雪不足で、リフトのあるエリアの週末はおそらく人だらけであろうから、静かな山行を楽しむには良いエリアと言える。天候に恵まれた事も幸運であった。周辺にはまだ魅力的な斜面が多数残されており、清水峠の避難小屋をベースにした山スキーをまた企画してみたい。     (木下記)