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雪の五色ヶ原から紅葉の針ノ木谷越え

アルバム
山域山名:北アルプス・五色ヶ原、針ノ木谷、針ノ木岳(富山県、長野県)
期  日:2009年10月10日(土)〜12日(月)
参 加 者:L宮田、栗原昌(計2名)

行動記録:

 雪の稜線を縦走して雪原に幕営し、朝焼けに染まる黒部源流の山々を眺め、粉雪を踏んで紅葉の道を下って黒部ダムへ、平ノ渡し船で紅葉真っ盛りの谷に入り、幾度も渡渉して二股で焚き火キャンプ、沢を詰めた峠から快晴の針ノ木岳山頂に立ち、新雪の北アルプス360°の大展望と、一ノ越からこの頂きまで3日間たどってきたルートをゆっくりと眺める。秋の3連休といえども浄土山から針ノ木峠まで出会った登山者はほんの数人のみ…、静かで奥深い晩秋の北アルプスの山旅を満喫してきました。

10/10 扇沢(7:30)=黒部ダム=室堂(8:00/8:30)→一ノ越(9:15/9:30)
 →浄土山南峰(10:00/10:15)→鬼岳東面(10:30/10:40)→獅子岳(11:25/11:35)
 →ザラ峠(12:15)→五色ヶ原小屋(13:00/13:15)→五色ヶ原キャンプ場(13:25)

<天候:朝曇り、のち雪>

 前夜扇沢駐車に着いてテントで寝ていたが、ひっきりなしに車が入ってきて夜中には無料駐車場は満杯になってしまった。トロリーバス始発は6時30分であるが、空が明るくなると皆ターミナルに歩いていく。我々もテントを撤収して45分前に行ったが、すでに切符売り場には長い列があったが、ギリギリ始発便に乗ることができた。室堂

 黒部ダムから見上げる雄山は2500mから上部が雪化粧、富山気象台は今日が立山初冠雪の発表をしたらしい。ザックは大荷物用の最後尾貨物車に乗せられたため、ダムを一生懸命歩いてもケーブルカー待ちはすでに長い列。それでもロープウェー2便の整理券をぎりぎりゲットできた。立山アルペンルートも今日は3連休初日の臨戦態勢、ロープウェーは5分おきに運行し、最後のトロリーバスも待つことたった10秒!ですぐに乗車できて、何と8時には室堂に着いていた。「やればできるではないか」、11月3連休も同じ態勢でお願いしたい。

 室堂の積雪は3pほど、雄山、浄土山などの稜線は雲に覆われていた。一ノ越までの遊歩道は石畳の平らな道で少しの雪でもとても滑りやすく、逆に歩きづらい。トラバースに入ると傾斜も出てきて、ストックでバランスをとって一歩一歩慎重に歩く。布のハイキングシューズもいれば12本アイゼンまで履いている人もいるが、一ノ越までは普通のハイカーも何とか登っていく。

 一ノ越の積雪は約5p、吹きだまりでは10pは積もっている。小屋前は一旦融けたのでアイスバーンになっている。当然であるが、ハイカーはみなここで引き返すようだ。事前に積雪情報を入手してあったので、一応装備してあった軽アイゼンをここで装着する。でも二人とも雪渓用4本歯と簡易なものなので、ちょっと不安を感じながら浄土山への尾根を登っていく。途中、栗原氏のアイゼンが外れて(これがまったく気がつかないほど簡易なアイゼンでした)、捜索のためタイムロス。
浄土山南峰
 ちょうど10時に浄土山南峰へ。5pと立派に成長したエビの尻尾ができていた。この南峰までは室堂山経由で結構登山者が登ってきていた。山頂をあとに龍王岳に向かうとすぐに雪が降り出した。寒気低気圧の降雪が始まったようだ。龍王岳肩のトラバースから嫌らしい岩場の下降へ入ると、進むのを躊躇していた?単独と2人パーティを追い抜いて先頭で下る。簡易な4本歯でも結構役に立って、不安も感じることなく鬼岳コルへ。6月にスキーで詰めた場所だ。鬼岳東面のトラバースも嫌らしい箇所があるが、岩が完全に埋まるほどの積雪でなかったので難なく通過できた。

 急登を登ると獅子岳山頂へ。この時は小雪程度だったので間食を取る。ここからザラ峠までは一気に急坂を下る。途中から吹雪模様になって風上に向かっては目を開けていられないほどとなる。何で10月からこんな思いをするの?と自問自答しながらも下るしかない。2400mまでくると登山道の雪が消えたのでアイゼンを外す。

 殺伐、荒涼という言葉がぴったりのザラ峠、文字どおり強い風に雪が飛ばされてきてとても休んでなんかいられない。写真のみで五色ヶ原へ向かい、ハイマツで風が避けられる場所があったので小休止を取る。急登を登り切ると五色ヶ原の木道が見えた。これまた濡れて滑りやすいので慎重に。崩壊していた五色ヶ原ヒュッテは撤去されていた。

 13時ちょうどに五色ヶ原山荘へ。幕営の受付をしようと玄関に入ったが、中は真っ暗で受付にも誰もいない。おおきな箱がいくつも置いてあって、もう小屋締めした?かの雰囲気。鈴を鳴らすと奥から小屋番が一人やってきた。最後には4名が出てきて、

☆テント受付お願いします。
▲この天気のなかテント張るの?寒いぞ〜(富山弁)

☆水場はありますか?
▲この気温と雪じゃほとんど流れていないよ。流れてても周りは熊や動物の糞がいっぱいだから飲まない方がいい。持っている水筒を全部出せや、小屋の飲み水入れてあげるから。トイレも戸をガムテープで塞いでしまったが、はがして使ってもらっていい。またあとで張りにいくから。

☆ビールください。
▲それがヘリが飛べなくて、小屋にはビールもないよ。明日で小屋締めだからもうこんな状態よ。すまないね、座る場所もなくて。ところで後ろに何人かいたか?

☆少なくても3人は五色ヶ原向かっている。3連休だけど今晩の予約はないの?
▲あるけど、この天気じゃみなキャンセルでしょ。普通の人はもう来ない方がいい。事故でもあったら大変だよ。
五色ヶ原山荘テント場
☆幕営料は?
▲そんなもんいらん。気をつけてな。明日はどこへいく?名前だけ聞いておくよ。

と、いう訳で長い木道を下ってテン場へ。もちろん誰もいない大きな五色ヶ原キャンプ場にテントを張る。設営後にやっと遅い昼食を取り、酒をちびちび飲んでから昼寝をする。

 寝不足のため2人とも爆睡してしまい起きたのは17時。どうもテントが狭いと思ったら、外は雪がしんしんと降って積雪は5pになっていた。フライに積もった雪を払い、周りに溜まった雪を掻き出す。夜にもやったので2回雪掻きした。15時頃にあられが降ったが、これが寒気渦の前触れでこのあと一気に降り積もったらしい。涸沢はテント村ができているだろうが、五色ヶ原のテントは我々のみで静か。雪は夜中まで降り続いた。

朝焼けの赤牛岳
10/11 五色ヶ原(6:20)→刈安峠(8:05)→平ノ小屋(9:10/10:00)=平ノ渡場(10:20)
 →南沢出合(11:05/11:20)→針ノ木古道(11:45〜12:35)→船窪分岐(13:20)
 →針ノ木谷・二股(13:50)
<天候:晴れのちくもり>

 4時起床、雪はやんだがまだ風は強い。雲間から星が見えているので、きっと朝から天気はいいだろう。雪は10p超積もっていた。気温は−5℃以下だろう、とても寒い。テントを撤収していると、5時50分に七倉乗越から太陽が上がってきた。新雪をかぶった赤牛岳や背後の五色ヶ原が赤く染まっていく。とても綺麗だった。

 6時20分に大雪原となった五色ヶ原発。真冬のような乾いた雪で、久しぶりの足裏の感触が心地よい。太陽に照らされて雪がまぶしい。真っ白な黒部源流の山々、赤い紅葉に雪のコントラスト、樹木に積もった雪景色を眺めながら快調に標高を下げる。積雪は標高2000m付近まで、これより下部は紅葉を楽しみながら下る。

 8時過ぎに刈安峠へ。北側に回り込んだ樹間から真っ白な雄山が見える。素晴らしい眺めだ。峠からはつづら折れの歩きやすい登山道を下る。古道を感じさせる道だ。次第に気温も上がってきた。紅葉は1800mくらいがピークでした。


 平ノ小屋途中の水場で行動水を補給して9時10分に平ノ小屋へ。10時発の渡し船まで時間があるので、ちょっと早いがベンチで昼食タイム。小屋で今晩のビールを仕入れる。小屋番の女性から、熊が食べているというブナの実をいただく。これがカシューナッツのようで美味でした。でもとても小さい実の皮を向くので、熊はとっても指先が器用な動物なのである。今年はブナの実も豊作のようで、彼女曰く、熊も子作りに励んで来春には家族が増えているでしょうと。聞くと、ヌクイ谷に冬眠の巣穴があって、秋までは針ノ木谷で過ごし、冬眠前に黒部ダムを泳いで帰るらしい。自然はすごい。

 平ノ渡しに乗って対岸へ。ダム上から見るアルプスの峰はまた格別の眺めである。対岸では、船窪から針ノ木谷を下ってきた男女2人と会う。二人とも楽しかったですよと満足そうだ。

 いよいよ針ノ木谷に入る。この谷の古道は1879〜82年に長野と富山を結ぶ山岳有料道路として利用され、もっと昔は戦国武将佐々木成政が冬の北アルプスを横断したルートという歴史ある道である。登山道は、渡し場から左岸を高巻いてほぼ水平に通っていた。所々石段や石積みの壁が残っていて、昔栄えた古道の面影を感じる。谷の入口に立つ避難小屋は屋根だけの簡素な造りであるが、中にテントを張ればいい。最初の右岸側への横断は木橋が架かっていた。このまま南沢出合まではしっかりとした道だ。

 南沢出合の水量はほぼ1:1。ここからが本当の針ノ木谷歩きの始まりである。2万5千図地形図とは違い、いきなりきわどい渡渉がまっていた。飛び石沿いに飛んで何とかクリア。このあと幾度も幾度も渡渉、渡渉の繰り返し。流れもそれなりにあったが、ストックを使って大股の石跳びが楽にできたので、登山靴がすっぽり水を被ることがなかった。一応、濡らしてもいい沢用靴も用意していたが、今山行では使うことはなかった。流水の多い夏期には沢用靴があった方がいいだろう。

 要所要所に赤ペンキと赤布があったのでルートを見失うようなこともない。紅葉の中の谷歩きは快適そのもの。小南沢を過ぎると、2007年に船窪小屋主人らが整備して復活させた針ノ木古道へ。古道は急傾斜の樹林帯を高巻いている。この箇所は両側が崖状になっているので、沢沿いは水流の中を行がねばならず、高巻きも嫌らしいルートになるのであろう。急登で一汗かいたあとはトラバース気味に標高を下げていく。途中休憩を入れて再び1730mで谷に降り立つ。正面右岸側には大岩壁がそそり立っていた。

 このあともまた渡渉を繰り返す。谷が狭くなり次第に倒木が目立つようになり、ルートは次第に不明瞭になっていく。船窪分岐は、岩に赤ペンキで書かれていた。分岐を過ぎると赤ペンキが少なくなり、赤布もまったくなくなった。さらにルートがはっきりしなくなったが、水線も細くなり渡渉が容易になったので、基本的には谷を上部に詰めていけばいい。

 13時50分に針ノ木谷出合・二股着。黄色い立派な道標が立っていた。ネットで二股左岸側を少し登った樹林中にある絶好のテン場スペースがあるとあったので、そのまま登って行ったが、最初の渡渉点に出たらどうもこの上にはそんな場所がある地形ではない。戻って樹林帯を下ると、そのとおり絶好のテン場スペースがあった。水線沿いにマーキングが残っていたが、その手前で樹林に入らないと見つからない場所であった。テントを張ってフライを枝に掛けてとりあえずテント乾しをする。そのあとは二人で薪を集め、焚き火を始める。沢水でさらに冷やしたビールで、暖かい炎を前に‘乾杯!!’ 赤い炎を見ていると気分も高揚です。沢ビバークはやっぱり最高である。

 沢を吹き降りる風が薪を燃え上がらせてくれ、酒も薪も全部なくなってしまった。今宵も針ノ木谷は我々のみと静かな夜であった。


10/12 針ノ木谷・二股(7:10)→1930m水場(7:50/8:00)→針ノ木峠(9:45/10:15)
 →針ノ木岳(10:45/11:30)→針ノ木峠(12:00/12:25)→大沢小屋(14:00)→扇沢(14:40)
<天候:快晴>

 今朝も快晴、氷点下と冷え込んだ。今日は小生の誕生日であるが、この素晴らしい天気と山に入り続けられていることが何よりも最高のプレゼントである。

 テントを撤収して二股を出発。狭い沢は両岸から崩壊箇所があり、地形図では渡渉2カ所であるが、実際の渡渉は何カ所あっただろうか。おまけに昨日とは違って、沢の石はとてもぬめっていて、ゴムの登山靴底ではまったくフリクションが効かない。2回ほど何でもない石に滑って危うくずぶ濡れになりそうだった。最後に2mほどの小滝が2カ所あって左岸側壁を登る時には、滑って滝に落ちないようにまじめに登る。

 1930mに右岸側から流れる苔むした清水で水を取る。ここから上部は涸れ沢となって水はない。針ノ木沢は2000m付近から広くなり、灌木も生えている。峠下は急傾斜であるが、中間部は広いカール状斜面で楽しい山スキー滑降が楽しめるでしょう。扇沢への下山に蓮華大沢と組み合わせたらきっと痛快に違いない。標高を上げるにつれて、鋭峰の七倉岳と船窪岳、奥に白い三ツ岳や槍穂高連峰、水晶岳も見えてきた。最後は所々崩壊した斜面を縫って、つづら折れの道を詰めて登っていくと針ノ木峠だ。
針ノ木峠
 谷を詰めて峠に立ち、そよ風を受けながら見下ろす谷はやっぱり大きい。峠から北を見ると、まぶしいほど白馬岳が真っ白だ。峠には単独者がいたのみで予想外に静かだった。連休最終日で、小屋番も明日の小屋閉めの準備で忙しく動き回っていた。昼食を持って峠を出発。針ノ木山頂へのルートには北側の日陰に雪が残っていたのみで快調に高度を上げる。

 快晴の針ノ木岳山頂へ。何度もこの頂きには立っているが、針ノ木谷から登った山頂はこれまでより感激もひとしおである。360°の大展望とはこのような眺めをいうのだろう、初冠雪の焼山や妙高、富士山や南アルプスもはっきり見える。乗鞍から槍穂高、黒部源流から立山や剱、後立山連峰まで、新雪をかぶった北アルプスの眺めはすばらしいのひと言である。誰もいない山頂で、ゆっくりと昼食を食べながら過ごす。最高の時間であった。

 名残惜しい山頂をあとに峠へ戻り、扇沢へ向かって下る。日本三大雪渓のひとつである針ノ木雪渓は、ノドの箇所に崩壊した雪塊が残っているほかはすべて融けていた。雪渓が消えた沢の道はとても悪い。源頭部は崩れやすい登山道、左岸側の高巻き道へ入ると鎖場の連続であった。雪渓には毎年春に山スキーで滑っているが、いつも10m以上の積雪の上に立っていたため、結構狭いことに気づく。沢から左岸樹林帯を下ると大沢小屋があったが、すでに9月6日で営業終了とあった。営業は夏限定のみらしい。小屋からすぐ沢側に下りる道に入る。これは沢沿いに付けられた作業道で山スキーでいつも通るショートカット道である。対岸の赤沢、鳴沢付近の紅葉がきれいだった。14時40分に扇沢着。今年も記憶に残る充実した秋の山旅を楽しめました。 (宮田記)          

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