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長次郎雪渓からの剱岳


【個人山行記録】


山域山名:北アルプス・剱岳 2999m(富山県)
期  日:2014年5月16〜21日
参 加 者:山口、外1名(L、会員外)(計2名)

 剱岳には雪を利用して5月に長次郎雪渓から登るのが一番登り易く、また膝にも優しいと考えて、今回の時期とコースを選んだ。ただし、悪天候では絶対に突っ込まない、晴れ3日が理想だが、少なくとも晴れ2日(入山日とアタック日)を絶対条件として考えていた。長次郎谷が登山解禁されるのは5月16日から。天候を判断して2日間後ろにズラし、16日埼玉発の計画にした。体力勝負の行程のため、私の体力不足から入山、下山のどちらかにさらに一日を要する可能性があり、予備日を2日間とした。



第1日:5/16(金)〈曇り〉
小川町山口宅集合・出発12:00 = 花園IC = 有磯海SA 18:15(車中泊)

 立山駅での泊が理想だが、立山駅には売店が無く不便なため、立山IC直前の有磯海SA泊とした。有磯海とは万葉の頃の富山湾のこと。富山湾の海の幸が盛り沢山な食事と鱒寿司などを楽しみ、明日からの体力勝負に賭けることにした。軽量化のため、明日からは殆どフリーズドライだ。



第2日:5/17(土)〈曇り、晴れ〉
有磯海SA5:00=立山IC=立山駅6:00/7:10 ==ケーブル・バス== 室堂2420m8:20/9:07--
(1:00) -雷鳥平2277m 10:07/10:37--(3:23) -- 剣御前2792m 14:00- -(0:40)- -
剣沢小屋2400m14:40--(1:05) -長次郎谷出合2000m 15:45 (幕営、泊)
<総行動時間:7時間38分(室堂から)>

 立山駅の始発のケーブルカーは、時刻表では7:20だが、土曜日だったこともあって、早くからすでに人が並んでいて、適宜早めに出発させてくれる。私達も装備等を整え、始発より10分早いケーブルに乗った。会から借りた50mザイルも入って私の70Lザックは16kgを超えていて不安だ。

 室堂で最終チェックをし、登山計画書を出す。長次郎出合にテント泊2泊し、長次郎谷から剱を往復したいと説明。前日に隣の平蔵谷で大きなデブリがあったので注意するようにということと、明日は天気が良さそうだから長次郎雪渓もまあ大丈夫だろう、でも十分注意して、と言われる。

 室堂から雷鳥平まで下る。雷鳥荘は水も出しっぱなしだが持ってはいけない。雷鳥平から見上げると雲で山は見えない。急登で早くも不安がよぎるが、ここを越えなければ入口にも立てないのだ。

 殆どがスキーかボードの中、アイゼンをつけてツボ足。休憩はとらず、一歩ごとに休みながら高所登山のような登り方で登る。NHK百名山の「剱岳」で案内していたガイドさんが、ボードの若い女性のグループを先導していた。さすがに彼の踏み跡は歩き易く、そのグループと前後になりながら、最後はハイマツの上も少し踏みつけつつ、緊張気味にトラバースしてやっと剱御前小屋に着いた。夏道のコースタイム2時間のところを約3時間半。その後、剱沢を下り、剱沢小屋を経て長次郎出合に到着。

 周辺を観察して、真砂沢までは下らずに、長次郎出合をテン場に決める。万が一の落石、雪崩の可能性も考えて、慎重にテントサイトを選ぶ。食後、約1時間半かかって翌日の水作り。水の確保の大変さを知る。夜はエアマットも持参したのに、寒くて眠れず。夜中起きると、上空は殆ど雲に覆われているが、東側には星も見え月が煌々と照っていた。明日は大丈夫と確信する。
            


第3日:5/18(日)〈晴れ〉
長次郎谷出合5:31-- (3:15) -- 熊の岩(左俣)8:45/9:00---(3:15) --
長次郎谷の頭12:15/13:00 --- (1:50) -- 剱岳山頂2999m 14:50/15:05--(1:55)- -
長次郎谷の頭17:00 - (1:00) -- 熊の岩18:00 --- (1:25) -- 長次郎谷出合19:25(泊)
<総行動時間:13時間54分>

 BCを出て長次郎雪渓を上る。10時方向、2時方向を見上げながら、常に落石・雪崩への注意を払いながら進む。大きな長いデブリを通過中、左脚が足の付け根まではまり込み、アイゼンがピッタリ雪に食い込んでしまって抜けず、ピッケルで掘り返す。   

 やっと熊の岩に着くと期待とは裏腹に平らな所は全く無く、斜面にバケツを掘ってザックと自分の場所を確保。ザックはピッケルを打ち込んで滑り落ちないように固定。この先はさらに急登になるという。右には八ツ峰の岩峰を見ながらの登りだ。最初から最後まで急な雪渓の連続で、要するにコルにまで上がらない限り、落ち着ける場所はどこにもないということのようだ。

 死ぬような思いで最後の急登を終わり、長い長次郎雪渓をやっと登り終えると、そこは地面一面がエビの尻尾で、白く輝く美しい貝殻模様のよう。踏むのが申し訳ないほどの美しさだった。反対側を覗くと眼下には富山湾と富山平野が見える。すぐ右手の大きな岩峰はチンネだという。八ツ峰はすでに下になり、遠くには白馬などか。左手のほぼ直角に見える雪の着いた50mほどの岩峰を超えれば剱本峰。これからが正念場だ。時間もすでに12時を過ぎてしまっていて、一体この雪の垂直にも思える岩壁を登って劔の頂きに到達できるのだろうかと思う。しかし、ここで引き返したら二度とチャンスは無い。

 軽い昼食後、ハーネスを着け、ザイル・登攀器等を用意して、最後の登りにとりかかる。確保しているから大丈夫だと言われても、50mも落ちるのは恐ろしくて、足場の悪い所でのトラバースの一歩がなかなか踏み込めない。雪はザクザクで、途中からはピッケルとバイルのダブルアックスがどう打ち込んでも効かない。逆に雪の下の岩に当たったりする。リーダーからは、ちょっと引っかかったらゴマ化して登れと言われる。3ピッチでやっと尾根下に届く。そこから力任せに雪の上に這い上がると、細いリッジだが一面の純白のエビの尻尾が神々しく陽にきらきらと輝く雪面だった。それが前方の小高い丘の上まで続いている。あの先が劔の頂だ。なだらかな丘陵状の雪面を登る。

 劔の山頂は一面が雪で覆われていた。すべての山が360度見渡せる。見るからに厳しそうな北尾根が見える。眼下には、一段とはっきりと富山湾だ。劔の頂上は意外にも尖ってはいないで、雪をかぶると優しそうな丘状だ。「剱岳2999m」という標識と一緒に写真を撮りたいと思っていたが、掘り出さなければ出てこない。しかし掘っている暇はない。頂上付近は雪もしまっていて足が埋まることもなく安全に歩けた。昨年は雪が腐っていて足がはまり込んでかなり時間がかかったそうだ。

 長居はできないので、早々に下り始める。エイト環を使って懸垂下降、2ピッチで下る。長次郎のコルから熊の岩までは急な下りなのでザイルで結び、熊の岩から先はデブリと格闘しながら、何とかヘッドランプを使わずにBCにまで帰り着くことが出来た。山の行動原則からは外れることであり、良くないことではあるが、すべて天候が安定していたからできたことであった。



第4日:5/19(月) 〈晴れ〉
長次郎谷出合9:37 --(2:23)- - 剣沢小屋12:00/12:30 --(2:10)- - 剣御前14:40/15:00 --
- (2:00) ---雷鳥平17:00
<総行動時間:7時間23分>

 体力を使い果たし、カメの歩み。計画書では4時間半と考えていた雷鳥平までになんと7時間半かかり、室堂までの登り返しは時間切れ。予定外に雷鳥沢テン場に1泊することになってしまった。

 しかし、剱沢の登り返しでは、行きにはガスっていて見えなかった剱本峰と八ツ峰の姿と遠くに後立山連峰の峰々が素晴らしく、剱沢小屋付近からは立ち去り難かった。また、雷鳥沢を下りきってからは、360度のぐるりを立山の峰々に囲まれ、至福の時空間だった。

      

第5日:5/20(火)〈晴れ、曇り〉
雷鳥平7:55--(1:50)-- 室堂9:45/10:40==バス・ケーブル== 立山駅P 12:00/12:20 ==
大山歴史民俗資料館・亀谷温泉白樺ハイツ(立ち寄り湯)13:00/15:30 ==立山IC ==
有磯海SA 17:00

<総行動時間:1時間50分(室堂まで)>                 (車中泊)
 本日中に埼玉までの一気の運転は厳しいと考え、宇治長次郎の富山市大山歴史民俗資料館見学などを入れて、有磯海SAでの泊を決めた。このSAは小さいながら、ホテルニューオオタニ高岡の参入で少し高級感があり、おいしいものも沢山ある。万が一も考えて留守を頼んで来た親戚や友人に土産を買った。



第6日:5/21(水)〈雨〉
有磯海SA 10:30 == 花園IC == 小川町 山口宅着、解散17:00

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 帰宅後、早速ツタヤで『剱岳 点の記』を借りて何度も見ました。特に長次郎雪渓(三の沢と呼んでいた)を登る最後のシーンは繰返し見ました。陸地測量部が登ったのは7月13日。雪がかなり融けていて、雪渓にも大きなクレパスが出来ていたり、沢を登りつめたコルの所には雪が無く、そこよりかなり下の方から岩壁を登り始めるシーンになっていました。岩壁にも雪が全く付いていなくて、完璧な岩登りです。しかし、5月はもっと雪が付いていて、ずっと登り易いと思われました。7月だったら私は登れなかっただろうと思います。その意味で、雪が落ち着いた5月の長次郎雪渓からの登攀は魅力的なコースではないかと思い、長々と報告書を書いてしまいました。

 私にとっては、一生の宝となる山行となりました。会のザイルもお借りし、お世話になりました。ありがとうございました。 (山口記)