ee You Again またあいましょう

福 田 和 宏

また、会えましたね・・・。思いがよみがえり笑みをかわす。お互い元気でよかった。

インドの首都ニュデリー、カニシカホテルで宝石商サンジャイ氏との再会である。なじみの番頭さんもニコニコしながらコーラを配り何かいいたげである。私がインドを訪れるとき、そこにはいつもこの2人の笑顔があった。思い出すと初めてお会いしたのが私が大学3年生の時(1987年)であった。それ以来、食事に誘ってくれたり、航空券やホテルの手配をしてくれたり、外国人には勝手のわかりにくい列車の座席までみつけてくれたり・私たちの旅の様々なトラブルを解決してくれたりと・・・数え切れない献身的な親切を受けてくることになる。

向かいの本屋の主人も懐かしげに顔を出す。商売気のあまりない主人で今までも必要以上のことは互いに話したりもしない間柄なのだが、なんとなく親しみ深く、目で今回もよってよというような視線を投げているので、一応右手をあげると、反応鈍く3秒後に目を細めるといった調子である。ここの本屋は絵葉書を売っているので顔なじみなのだ。というのは、普段筆無精の私も、旅先からもらった絵葉書がとっても嬉しかったという過去の経験から、旅先まして外国からの葉書は生徒たちもきっと喜んでくれるだろうと思い込み、一生懸命書いているという次第である。年とともに出会う生徒の数が増え、今では、年賀葉書以上の重労働となっている。口では、¢まったく大変だよなあ£などと言いつつも実はこれが旅の楽しみの一つになっているという事実を同行の仲間たちもきっと知るまい。その葉書を調達するのがここの主人からなのである。切手も一緒に売っているというのも実にいい。ここ数年は、切手も欲しいと言わずとも、葉書をドバッと手渡すだけで、この主人枚数を聞き私の不確かな枚数にさっとうなずき、おもむろに机の引き出しをあけ6ルピー分の切手を必要数そろえてくれる気のききようだ。私が葉書の数を間違えているかもしれないから数えてくれるよういっても、NO PROBREM(問題ない)という言葉が帰ってくる。

そして、このホテルで、今年からもう一人また会いたいという人物ができた。本屋の斜め向かいのカーペット屋のおやじである。ABCカーペットという怪しい名前である。今まで何となく高級そうで敬遠していたのだが、今回しつこいくらい顔を会わせるたびによってけよってけといい、何で俺の店だけこないのだというような意味のことをいうので仕方なく足を踏み入れると、サッとチャイでもてなしてくれ、オレはあなたのことを10年前から知っているんだと調子のいいことを言って(10年前は私はまだインドに来たことは皆無である)ささやかだがプレゼントまでもらってしまったのである。見るだけだからと辞退しても、いいんだと断固ゆずらなかった。トレッキングから帰ったらまたよってくれという言葉に私も頷き店を後にした。確かに10年はオーバーだが、サンジャイさんのお店や本屋にしょっちゅう顔を出していたのでそれを見ていたのは確かかもしれない。約束通りトレッキング後、ホテルへ帰ってくると待ってましたといわんばかりの思いを身体全体で表し店に迎え入れてくれた。このおやじ、店が暇なものだから、いつもロビーのあたりで手持ち無沙汰な様子でいるので、いやでも顔をあわせてしまうのである。私も「やあっ!」と手をあげ近寄り、マナリで彼のために買ってきていたプレゼントのお礼を渡すと、びっくりした様子で慌ててクッキーだのチャイなど用意してくれ話しに花を咲かせるという次第である。

このホテルを出て、左に曲がるとニューデリーのド真ん中コンノートプレースに向かうジャンパス通りである。30Mも歩くとそこには、いつものタバコ屋のにいちゃんがいる。毎年必ずここでビーディーを大量に買い込んで帰国するのである。間借りしているようなちっちゃなスタンドなので、いつまでもここにはいないだろうと思うのだが、ここ3年ずっといる。インドではぼられることが多いのだが、このにいちゃん、去年は60ルピーで1パッケージ買ったはずだというと、ニタッと笑ってごまかそうとしていたかもしれないでばなをくじかれることになるのである。そんなことが3年も続いているので、すっかり友達になってしまった。外出しこの店の前を通るたびにちょこちょこち寄っては、くだらない話しで盛り上がっている。

インド料理、ことにタンドリーチキンのうまいモーティ・マハールのレストランのボーイも傑作である。このボーイ、売上を伸ばそうとしてかビールを一口飲むとサッと背後に現れグラスにまだちょこっとしかあいていないのにさそうとするのである。せっかくだからとグッと飲んで、ついでもらうと嬉しそうである。これが何度も続くものだから、すっかりほろ酔い気分を通り過ぎ酩酊状態に陥ってしまうのだが、そんな中で彼とこんな約束をし彼のサインまでもらってきた。“来年このサインをもってまた来るようであったら、ビールを2本おごる”と。

ヒマチャル・プラデシュ州のトレッキングの基地マナリへ着くと山荘アシュラムで森田さんが豪快な笑い声で迎えてくれる。教員を退職後インドに家を建ててしまい、半年はこちらでの生活、なんてすごい人だろう。ガイド組合の頭であるリグジンさんと連絡をとりあい私たちのトレッキングの手配をしっかり整えてくれる。リグジンさんの長男サンペル君・弟アンドゥ君・若きガイドのパルカッシュ氏・コックのラマ氏・・・多くの人にお世話になって今回のトレッキングも成功に終わった。

実にありがたいことに、私にとって毎年恒例化している夏休みを利用しての海外旅行。さぞ、あちらこちらでかけているのではと思いきやインド・インド・インド・・・。何故インドなのか。来年はどちらへ?と問われれば、「もちろんインドさっ。」と答えるに違いない。インドの魅力については以前にも書いた記憶があるが、今年さらにその魅力が増えたように思う。私にとって、観光地だけを通り過ぎるのであるならば、1回行けばもう2度と来ることはあるまい。でもそこに親しい人ができ、楽しみができるとまた行きたいと思うようになる。自分の拠点ができたというか、あそこへ行けばまた、あの懐かしい顔が待っているそう考えただけで楽しい。毎年決まった時期に同じ場所を訪れるのは実にいい。そういう場所をたくさんもつことは人生の喜びであろう。われわれの仲間たちの多くが訪れる年末の福島県野地温泉もそうだ。生きている間に、この地球の仲間たちにどれだけ話しかけられ親しくなれるだろうか。そんなことを考えていた今年の旅であった。

インドの友達。村越先生を始め、同行の仲間の皆さん。今年も勉強になりました。ありがとうございました。また来年、インドであいましょう・・・。