インドに行って

渡 辺 智 一 郎

インドの旅も終わり、また日本の生活に戻った。日本の早い生活リズムに驚く。こんな早い生活をしていたとは‥‥‥‥。しかし、昨年と同様すぐに慣れてしまうだろう。

インドは2度目であったが、前回とは異なった興奮を覚えた。それは、月の大地、レーに行ったためであろう。地上に降り立ち空港から出ると、周辺は岩だらけであった。レー、この地域の気候はヒマラヤ山脈を越えるため乾燥している。このことぐらい知ってはいたが、これほどはっきりと変化が表れるとは考えられなかった。海抜3500M、この広い砂漠のような大地が3500Mもの高地にあるとは信じ難かった。空気は澄んで、雲は果てしなく高かった。高度障害のせいかどうか分からないが、ともかく夢のような気分であった。

レーの町では、チベットで失われたラマ教文化が根強く残っていることに感動し、また、人々は素朴であった。しかし、同時に疑問も持った。なぜ人々はかたくなに伝統を守って、宗教を信じて暮らしているのだろうか。なぜこの不毛とも言える土地に根を下ろしたのだろうか。この町は冬になるとマイナス20度ぐらいに冷え込む。なぜ人々はここに住み続けるのだろうか。宗教があるからこそ、ここに住み続けられるのだろう、としか自分には考えつかなかった。

トレッキングも最高であった。澄んだ空気の中で深く青い空、輝く白い雲、そびえ立つ山々の中を歩いたことは、“幸せであった”と一言に尽きるだろう。他にはどう表現してよいか分からない。調子が悪かった人には申し訳ないが、高山病の症状も出なかったことも幸いであった。トレッキングを通して快調であった自分の身体に、感謝すると同時に自信がついた。

「ザンスカールはどうだった?」他人に聞かれる。「良いところだけれど、高山病もきついし‥‥‥‥」僕は曖昧な返事をするだろう。なぜなら他の人には行って欲しくないから。自分が定年になって再び訪れるとき素朴な人々が、高い空が、雰囲気が変わって欲しくないから。

今回の旅で自分は変わっただろうか?インドの秘境ザンスカールに行って、自分は変わっただろうか?自分からの疑問でもあり他に人からの疑問でもある。自分は、「変わったかも知れないし、変わってないかも知れない。」としか答えられない。よく本などに、「インドへ行くと人生観が変わる。」などと書かれているが、そのような感覚はまったく感じなかったと言えば嘘になる。しかし、自分で実感できるほど感じなかった。今回の旅行で生じた心の変化が、僕の内面にしっかりと焼き付いていれば幸いである。将来ふとしたことで内面の変化が感じることが出来れば、と思っている。

「またインドへ行きたい。またトレッキングがしたい。」これが自分の正直な感想である。