山域山名:北アルプス・烏帽子岳、野口五郎岳、水晶岳、雲ノ平(長野県、富山県)
期 日:2005年7月16日(土)〜19日(火)
参 加 者:CL宮田 SL木村 駒崎(計3名)
行動記録:
高瀬ダムからブナ立尾根を烏帽子岳に登り、野口五郎岳、雲ノ平を経由して北アルプス最奥の秘湯・高天原温泉露天風呂に浸かり、温泉沢から水晶岳に登って前日に歩いたばかりの稜線を真砂岳まで戻り、竹村新道で湯俣温泉に下って河原で露天風呂を掘るという今回の計画。しかも高天原温泉にはテン場がないため小屋泊となるが、終始幕営道具を担いで。一見馬鹿げた山行と思えなくもないこの計画に元気者2人が賛同し、梅雨明け前の北アルプスに向かった。
その苦労に報いるかのように、咲き盛る他品種の高山植物群落と山中での梅雨明け、長時間行動による疲労を和らげてくれる硫黄泉たっぷりの良質な温泉が我々を迎えてくれたのであった。
7/16(土) <天候;午前中くもり時々雨、午後くもり、夕方に雷雨>
循環器センター(3:30)=七倉(7:00/7:30)=タクシー=高瀬ダム1290m(7:40/7:50)→
トンネル出口(7:55/8:10)→ブナ立尾根取付1320m(8:25)→1600m(9:05/9:15)→
1950m(10:10/10:20)→三角点2208m(11:00)→タヌキ岩2250m(11:10/11:20)→
烏帽子岳キャンプ場2550m(12:15/昼食&テント設営/13:30)→烏帽子岳(14:15/14:40)→
烏帽子岳キャンプ場(15:20)
『日本三大急登のブナ立尾根をひたすら登る』
七倉山荘前の駐車場に着くと、三連休初日にしては思ったよりも車はまばらであった。タクシーの運転手によると、登山者は去年の半分ほどという。トンネルを抜けて、2日前に掛け替えたばかりの不動沢の吊り橋を渡る。7月上旬の豪雨による土石流で流され、その時ちょうどブナ立尾根を下った登山者は渡るべき橋がないため、また標高差1200mを登り直すことになったという。梅雨末期の登山はいつも以上に注意が必要である。
ブナ立尾根、さすがに日本三大急登というだけあって、つづら折りにグングン高度を上げていく。ただ登山道は歩きやすい砂礫の道で、時々降る雨にもかかわらず、そんなに辛くない。高瀬ダムから歩行時間4時間弱で烏帽子小屋に着く。初日の重荷にもかかわらずなかなかのタイムで登れた。これなら明日の高天原までのロングルートも、そう苦労はないかもしれない。
『午後は雨もやみ、コマクサ咲く稜線を烏帽子岳まで散歩に出掛ける』
小屋からニセ烏帽子にかけての登山道脇には、コマクサ、コイワカガミなどの高山植物がたくさん咲いていた。時折薄日も差し、とても気分のよい稜線である。ニセ烏帽子からみる烏帽子岳オベリスクは、まるで鳳凰三山地蔵岳をスケールアップしたような感じであった。この稜線に行き交っていた登山者30人程は、皆、今朝にダムから登ってきた人達であるが、今回の山行中一番賑やかだったような気がする。それでも山頂は我々3人だけで独占。真っ白な五色ヶ原の向こうに立山が見え、しばし静かな午後のひとときを楽しんだ。
¥¥¥ 幕営料1人 500円/水1L 200円/ビール350ml 550円/タクシー 1990円
7/17(日) <天候;くもり後晴れ>
烏帽子キャンプ場2550m(5:10)→三ツ岳北方前衛峰2770m(6:04/6:10)→
三ツ岳西方鞍部2800m(6:25/6:35)→野口五郎岳2924m(7:50/8:20)→
竹村新道分岐2800m(8:45)→2833mピーク東(9:10/9:15)→東沢乗越東方(10:12/10:18)→
水晶小屋2900m(10:40/昼食/11:20)→岩苔乗越2730m(11:55/12:10)→
祖父岳2825m(12:50/13:05)→雲ノ平キャンプ場2550m(13:35/13:40)→スイス庭園往復→
雲ノ平分岐(14:15)〜電波塔2576m(14:40/14:55)→高天原峠2250m(15:50/15:55)→
高天原山荘2130m(16:45)→からまつの湯往復(片道15分)…入浴
今日は高天原まで16.5qに及ぶロングルート。そのあとには、憧れの露天風呂が待っている。午後から一気に天気も回復し、夏の北アルプスを満喫した一日となった。
『三ツ岳から野口五郎岳への稜線はまぶしいほどに白く明るい稜線であった』
朝方は曇り空、稜線で吹く風に当たると涼しいくらいだ。登山道は三ツ岳山頂を巻いて野口五郎岳に続いていく。この間はアップダウンもほとんどなく開放感抜群の気持ちよい稜線、白い岩質で重厚な野口五郎岳まで一気に進む。野口五郎小屋から山頂までの窪地では、イワウメなどをはじめとする高山植物が咲き乱れていた。百名山に選ばれていない理由はよく分からないが、素晴らしい名山だと思う。雄大なカールをしたがえた水晶岳東面が圧倒的に迫り、眼下には五郎池がひっそりとたたずんでいた。ここをスキーで滑ったら、さぞ爽快だろう。
『水晶小屋まで一変してやせ尾根の登下降、眼下の東沢谷をいつかは沢登りで……』
野口五郎岳から岩稜を下って真砂岳を巻き、竹村新道分岐を通過する。明日は、ここから湯俣温泉まで長い長いルートを歩くことになる。水晶小屋までの間は先ほどまでの広い稜線からやせ尾根に変わる。南側のワリモ沢は崩壊が進み、ガレた斜面を何度も通るが、1箇所高山植物の大群落があった。北側はスイスアルプスを思わせるような広大な東沢谷が拡がっている。ツメの東沢乗越は穏やかな地形で藪もなく、とても明るい雰囲気であった。7月の谷にはまだ雪渓がだいぶ覆っているが、奥黒部ヒュッテから入渓して東沢乗越まで遡行したら、最高に楽しい沢登りが待っているに違いない。
『急速に天気が回復し、まぶしい青空の雲ノ平はまさに別天地であった』
黒部川源頭でもある岩苔乗越に立つと、急速に青空が広がった。岩苔小谷を挟んで水晶岳だけが圧倒的に高い。個人的には、2003年GWにはこの乗越までスキーで登り詰め、黒部源流の山スキーを楽しんだ思い出深い場所でもある。
祖父岳からは、鷲羽岳、黒部五郎岳、薬師岳、水晶岳など黒部川を囲む名峰群の360°の大パノラマを楽しむ。昨年の夏に遡行した赤木沢もはっきり見える。スイス庭園を散策しながら雲ノ平をゆっくり歩く。それにしても静かだ。登山者がほとんどいない。キャンプ場には2張りのテントが張られていた。水も豊富で景色も素晴らしい、最高のテン場である。ここにテントを張っても十分楽しいが、やっぱり高天原温泉の湯に浸かりたい。もう少しがんばろう。
『憧れの高天原温泉へ……、露天風呂は最高でした』
高天原峠への分岐からは道も悪くなり、一部、崩壊のためか樹林に新道が付け替えられていた。峠を下り、岩苔小谷の粗末な丸木橋を渡り、小沢を2つ徒渉すると、ニッコウキスゲ咲く高天原に着いた。小屋で素泊まりの手続きを済まし、まずは1日の労をねぎらいビールで乾杯。そのあとすぐに、歩いて15分の温泉沢脇にある露天風呂「からまつの湯」に向かう。「混浴」と「女性」風呂とも温泉沢右岸に作られていて。混浴は石作り3畳ほどの大きさ、乳白色の湯がたっぷりと注がれていた。湯加減もちょうどよく、まさに極楽である。テン場が近くにあればいいのに思う。まったりと浸かって山荘に戻った。今日の泊まり客は15人ほど、昨日の薬師沢は1人だけであったそうだ。水晶岳西面がよく見えるテラスで酒を飲みながら夕飯を食べた。
¥¥¥ 素泊まり1人 5200円/ビール350ml 500円(但し越冬ビールで賞味期限切れ)
7/18(月) <天候;晴れ、午後くもり、にわか雨>
高天原山荘2130m(5:15)→からまつの湯(温泉沢出合)2050m(5:30/入浴/5:45)
→ルートを誤り引き返す→温泉沢出合(6:10)→温泉沢2170m(7:00/7:25)→
尾根取付2210m(7:45/8:10)→2580m(9:05/9:15)→温泉沢ノ頭2870m(10:10/10:25)→
水晶岳2977m(11:25/昼食/12:10)〜水晶小屋2900m(12:45/12:50)→
東沢乗越2734m(13:25)→2833mピーク西(13:50/14:00)→竹村新道分岐2800m(14:45)→
真砂岳南方2780m(14:55/15:00)→南真砂岳直下2700m(15:45/16:00)→
湯俣岳2378m(17:15/17:25)→1970m(18:20/18:30)→湯俣温泉1400m(19:30)
朝から天気は快晴、北アルプスも梅雨明けをしたようだ。今日も昨日に続いて17qにも及ぶロングルート。水晶岳までいきなり800mの登りと、最後の湯俣温泉までの長い下りが待っていた。
『朝風呂に入ってから水晶岳へ。温泉沢ルートは徒渉、急登の悪路であった……』
水晶岳へは岩苔乗越を経由するルートと温泉沢から直接主稜線の支尾根に取り付く温泉沢ルートがあるが、小屋番が2日間前に整備したとの情報を得たため、温泉沢ルートを取ることにする。星空が降り注ぐ小屋のテラスで朝食を取り温泉沢へ。露天風呂から今日も始まりだ。鋭気をたっぷり蓄える。今日も長い行程が待っている、コースタイムでは約12時間だ、がんばろう。
しかし初っぱなの温泉沢ルート入口が分からず、間違って竜晶池方面に向かってしまい20分ほどロスをしてしまった。気を取り直して再出発。踏み後など一切なく、小屋番が石につけた赤いペンキを目印に進む。小屋も実質今週からオープン、整備も2日前であるため、我々が今シーズン温泉沢に初入りであろう。沢全体が雪解けによる土石流跡のような感じで岩は極端に不安定、とても歩きづらい。まだ水量も多く、何度も登山靴を濡らすような徒渉や時には水流脇のきわどいヘツリなどもあり、エアリアマップに熟練者向きとあるのもうなづける悪路だ。約1時間ほど登ったところで、先頭の自分が積み重なった石が上から崩れ落ち、すねに裂傷を負ってしまった。かなりの出血をみるが大事には至らず、止血と応急手当を済ませて歩き出す。
『急登を登りつめ水晶岳山頂へ。吹く風は爽やか、静かな登山を楽しむ』
支尾根取っ付きには道標が残っていたが、沢の状態によって毎シーズン徒渉する箇所は違うようである。ここから水晶岳主稜線までの尾根は、ブナ立てをさらに急にした道で、石も不安定でかなり消耗する。森林限界からは心地よい風が当たり、バックの薬師岳の大きな山容が疲れを癒してくれた。主稜線に到着すると東面カール越しに目指す山頂が見える。北に向かうと赤牛岳だが、黒部川に架かる吊り橋が落ちているため、まだこの稜線を歩いた登山者はいないかもしれない。高山植物を楽しみながら稜線を1本登ると、狭い水晶岳山頂であった。まさしく360°の大展望、槍ヶ岳から黒部源流、剣から白馬までたっぷりと景色を楽しむ。花の稜線を降りると、昨日通ったばかりの水晶小屋、ザレた稜線を竹村新道の拠点真砂岳に向かう。
『下っても下っても湯俣温泉は遠い……、長い長い竹村新道を下降する』
竹村新道に入ったのが午後2時45分頃、何とか明るいうちに湯俣温泉には着きたい。かなり疲労はしているがみんなはまだ元気だ、黙々と歩く。南真砂岳への中間付近にガレたトラバースが数カ所あり、時間がかかった。この頃から、薬師岳方面や槍ヶ岳から雷鳴が聞こえ出す。北鎌尾根には強い雨が降っているようであるが、我々のいる辺りでは雨が数分間ポツポツ落ちてきた程度で済んだ。精神的にも体力温存のためにもラッキーであった。
竹村新道は昨今登山者にはあまり歩かれていないが、その割には登山道は明瞭で、下部は笹の刈り払いがしっかり行われていて快適であった。これだけの長いルートを管理する人達の労力は大変なものに違いない。感謝である。夕闇が迫り、足下も見づらくなった7時30分に湯俣山荘晴嵐荘に着いた。約14時間にも及ぶ長時間行動、大変お疲れさまでした。
まずはビールで乾杯、山荘前にテントを張りすぐに山荘の内風呂に入らせてもらう。テン場は我々のみ、夜遅くまで酒を飲んだ。
¥¥¥ 幕営料1人 500円/内湯入浴料 500円/発泡酒350ml 550円
7/19(火) <天候;くもり後晴れ、朝方にわか雨>
噴湯丘見学&湯俣川で露天風呂堀り…湯俣温泉1400m(10:55)〜高瀬ダム1290m(13:05)=
タクシー=七倉温泉=熊谷
今日は、高瀬ダムまで平坦な道を10q程歩くのみ。ゆっくりと起きて、湯俣川河原に湧く温泉を楽しんでから下山しました。
『湯俣温泉噴湯丘を見学し、湯俣川河原で露天風呂を掘る。最高ですね!』
午前6時過ぎと遅い起床。モーニングコーヒーを飲み、朝食前に入浴とする。山荘でスコップを借りて吊り橋を2つ渡り、90度の熱湯わき出す河原に向かう。湯俣川右岸から硫黄泉が湯気をたてて湧き出している。直接さわるとやけどしてしまうほどだ。そこから100mほど上流の噴湯丘を見学する。噴湯丘は左岸にあるため、対岸から眺めるだけであったが、いきなり4〜5mほどの白い物体が立ち上がり、頭から温泉が噴き出している、何とも不思議な光景だ。
戻ってから、いよいよ露天風呂を掘りだ。いくつか岩を1m四方に囲った湯船?があるが、一番適温(といっても温泉と川が混じり合うため、かなり熱めかぬるめと難しい)なものを選び、スコップで砂を掻き出す。何とかへそまで入れるようになったので、ブルーシートを沈ませ(砂下からも熱湯が湧いているため、これがないとやけどをしてしまいます)、その上に入浴である。ちょっと熱めであったが、慣れれば極楽極楽。いやー、下山後の楽しみとしてはこれ以上のものはない。最高であった。
遅い朝食を取りテントを撤収。ノンストップで高瀬ダムまで歩く。ダムサイトに立つと、ブナ立て尾根の向こうに烏帽子岳がくっきりと見えた。長い北アルプスの縦走が終わった。
(宮田記)
★装備について
がさばるテントマットの代わりに100円ショップで購入した薄いブルーシートを使用。寒くない時期はこれで十分。但し、火気使用時には直接テント本体に触れるために要対策。
食料はほとんどジフィースを活用、3泊で使用したガスカートリッジはちょうど2個。
【登山道で見られた花の報告】(駒崎記)
<烏帽子岳周辺>
コイワカガミ、コマクサ、アオノツガザクラ、イワギキョウ、キヌガサソウ、
タカネスミレ、コケモモ、シナノキンバイ、イワツメクサ、ミツバオウレン、ツマトリソウ
<烏帽子岳〜野口五郎岳>
シナノキンバイ群落、ハクサンイチゲの群落、オヤマノエンドウ、タカネヤハズハハコ、ミヤマキンポウゲ、ヨツバシオガマ、イブキジャコウソウ、ミネズオウ、
キバナシャクナゲ(終)、イワウメの群落(野口五郎岳直下)
<野口五郎岳〜水晶岳>
タカネスミレ群落、ミヤマオダマキ群落、シナノキンバイ群落、ハクサンイチゲ群落、
クロユリ(小屋裏に2輪)
<雲ノ平周辺>
タテヤマリンドウ、ウメバチソウ、ベニバナイチゴ、ミヤマハンショウズル
<高天原周辺>
コバイケソウ群落、ニッコウキスゲ群落、ワタスゲ群落、モウセンゴケ、イワイチョウ、ムシトソスミレ(露天への道)
<水晶岳稜線>
ハクサンチドリ、チングルマ、チョウノスケソウ、チシマアマナ、イワウメ、
シコタンソウ、イワヒゲ、イワベンケイ、ハクサンイチゲ
<水晶岳〜水晶小屋>
ミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ群落、ハクサンイチゲ群落、キバナシャクナゲの大群落(見頃)
<真砂岳〜湯俣温泉>
ハクサンシャクナゲ、ミヤマクワガタ、ムシトリスミレ、シナノキンバイ、ヨツバシオガマ
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