熊谷トレッキング同人 国内山行記録
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「キナバル山の記録」 |
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【個人山行記録】 山域山名:マレーシア・サバ州(ボルネオ島)・キナバル山 期 日:2012年8月15日(水)~16日(木) 参 加 者:浅見政人(ガイド登山) 《キナバル山について》 マレーシアという国はタイから続くマレー半島の部分と、海をへだてたボルネオ島北部の2つの部分からなる。キナバル山はボルネオ島のサバ州にあり標高4295.2m東南アジア最高峰である。2000年には世界遺産に指定された。宿泊施設の数が限られているため、入山者の上限が決められ、入山者はIDパスを携行し、途中のゲートで提示しなければならない。また8人までのグループに1人のガイドをつけることが義務づけられている。 トレイルはとてもしっかりしていて登りやすい、ガレていたり、滑りやすいということはない。1時間おきくらいにシェルターといわれるトイレ付きの施設があるので安心である。普通は1泊2日で登るが、キナバルパークで宿泊したり、ラパンラタで2泊するなど時間をかけて登ることもでき、そうすれば初心者でも登れる4000m峰である。 8月15日 コタキナバル発6:30=キナバルパーク管理事務所8:20/8:40= ティポポンゲート(1866m)9:00-ラヤンラヤン職員宿舎(2707m)11:30/12:00- ペンダントハット(3289m)14:25 スーツケースに使わない荷物を入れ、小屋泊まり山行に必要な装備をザックにまとめ、6:00にホテルの朝食を取る。6:30に現地スタッフが迎えに来る。スーツケースは彼に預けるように言われていたのだが、結局ホテルに預けることになった。日本のツアー会社と現地との連絡はあまり良くないようだ。 コタキナバルから2時間ほどでキナバルパークの管理事務所に着き、ここで入山手続きをする。パスポートが必要。IDパスと弁当を受け取り、マウンテンガイドのアビスを紹介される。彼はカタコトの英語を話すが、私の英語もカタコトなのでコミュニケーションができるか多少不安だった。しかし、2日間私のペースで歩き、親切にガイドしてくれた。明るい性格ですれ違うガイド仲間と必ずマレー語で楽しそうに会話していた。管理事務所から登山口までは車で20分ほどである。 登山ゲートのあるティポポンゲートでIDパスを見せて登山開始。今日は、宿泊施設のあるラパンラタまでの標高差約1500mの登りである。登山口の標高は1866mあるのであまり暑さは感じない。服装は日本の夏山登山と同じ、急な登りが続くが、汗をかく程度、汗が流れるほどではない。また、心配して虫除け入りのウエットティッシュを持って行ったが2日間で虫に悩まされることはなかった。ゲートからは10分ほど緩やかな下りで滝の下で沢を渡ると後はひたすら登りである。熱帯雨林のうっそうとした森をイメージしていたが標高が高いからか明るい感じの森である。コケ類やシダ類が多い。ところどころにランの仲間のピンクの花やウツボカズラがある。 約2時間半でラヤンラヤン職員宿舎(2702m)。ここで昼食。中身はサンドイッチに唐揚げとリンゴだった。紙パックはシェルターに備え付けの金網でかこまれたゴミ箱に捨てることができる。ここから上は木が低くなりときおりキナバルの岩峰群が見えるようになる。標高が3000mをこえると、呼吸が荒くなり、ペースが落ちる。今日泊まる予定のペンダントハットで3時頃から明日のヴィア・フェラータの打ち合わせがあると聞いていたので少し早めのペースだったが充分に間に合うだろう。花の写真を撮りながら登った。ペンダントハット(3289m)着14:25。 ペンダントハットはラパンラタレストハウスのまわりに点在するいくつかの山小屋の中で、ヴィア・フェラータ参加者用に新設された小屋で、簡単な朝食がとれるホールと二段ベッドの並んだ部屋があり快適である。寝具は取り外して洗えるライナーのついた羽毛シュラフである。結局、ヴィア・フェラータの打ち合わせは4時からと言うことで、シャワーを浴びる。どう調整してもぬるま湯程度にしかならなかったが標高3300mでシャワーを使えることは画期的である。 打ち合わせはローランドというチーフトレーナーによる英語での説明。半分くらいしかわからないけど、自分の安全にかかわる所は何度も質問して納得することができた。明日、ロングコースに参加するのは私とニュージーランド人の女性たちあわせて3人だけで、中国系の10人グループはショートコースに参加するようだ。 夕食は5分ほど下った所にあるラパンラタレストハウスでビュッフェ。明日同じグループになる2人と仲良くなりたいと思って、同席させてもらい。食事をしながら自己紹介程度の会話をする。オークランド在住のセリアとジュポールという若い女性。セリアはニセコにスキーに来たことがあり、ジュポールはキリマンジャロに登ったと言っていた。食事の後は、大阪から来た若者5人グループとコーヒーを飲みながら話をしてからペンダントハットに戻って早めに就寝した。 8月16日 ペンダントハット(3289m)2:30-ロウズピーク(4095m)5:50/6:40- ヴィアフェラータスタート地点(3776m)7:25-ヴィアフェラータ終了点(3350m) 10:15-ペンダントハット10:30/11:30-ラパンラタレストハウス11:40/12:00- ティポポンゲート(1866m)15:20=キナバルパーク管理事務所=コタキナバル18:00 1時半起床。トーストとコーヒー程度の朝食を取って、2:30出発。ヘッドランプをつけて急斜面を登る。この日の服装は日本の秋山程度。帽子手袋で防寒対策をした。頂上台地にでるまでの急な登りが、一番つらい所だった。アビスに「ギブ・ミー・ブレイク」などと言って休憩を入れてもらいながら登った。彼は「スローリー・スローリー・ゴー」などと励ましてくれる。 3668mのサヤッサヤッ小屋でIDパスを見せる。ここからは頂上台地で広々した花崗岩の大斜面をゆっくりと登っていく、木がないので先行する登山者たちのヘッドランプの光がよく見える。5:50山頂(ロウズピーク4095.2m)着。どうにかご来光に間に合った。さすがに寒いので雨具の上をはおる。6:03ご来光。岩峰群が赤く染まって美しい。頂上部に何本もの鋭い岩峰群を持っているがキナバル山全体としては独立峰で、森林の中でここだけ高く屹立している。遥か下のほうに森とわずかな集落が見える。呼吸は荒く軽い頭痛があるが、とても充実した気持ちだった。アビスが何枚も写真を撮ってくれた。充分休んでから下山を始める。 頂上台地を約300m下るとミーティングポイントがあり、ヴィアフェラータのトレーナーが二人で準備をしている。3776mちょうど富士山頂と同じ高さからヴィアフェラータはスタートする。これはギネスが認めた、世界最高所のヴィアフェラータだそうだ。ここでアビスとはいったん分かれて、トレーナーとロープを組む。私と組むトレーナーはモハメド・アリと言う25歳の若者である。ニュージーランド人のセリアとチーフトレーナーのローランドがロープを組み、ジュポールはショートコースに変更したようだ。トレーナーからハーネスとヘルメットを受け取って身につける。当然ながらトレーナーは何度も確認していた。アリは30mほどのロープを持っているが、今日のカスタマー(客)は私一人なのでほとんどをザックにしまい、一部をループにして自分の体に巻き、ダブルエイトノットでハーネスに固定して、最後の5mほどで私とつながっている。この5m位の間隔はヴィアフェラータのワイヤーケーブルを固定しているボルトの間隔と同じである。ヴィアフェラータは簡単に言うと二つのカラビナを掛け替えながら、岩壁に固定されたワイヤーケーブルを使って降りていくアトラクションである。 富士山頂と同じ高さからスリルと展望を楽しむことができる。カラビナは登山用と言うよりは工事現場用といった感じで手の平側と人差し指側の2方向から力がかからないと開かないようになっている。また岩との摩擦に耐えられるようなプロテクターがついていて信頼感がある。万一に備えてトレーナーとロープで結ばれていることもあり不安感はほとんど感じることはなかった。私が先に立って斜面を降り、ボルトのところでカラビナを一つずつ掛け替え、最後にロープを中間支点に引っかけるという単純な繰り返しで進んでいく。ところどころに鉄製のスタンスやホールドが用意されていてむずかしいことはない。剱岳や槍穂高に登れる人だったらまったく問題ないと思う。5mほどのワイヤーケーブルだけの橋や10mほどの吊り橋などがあるがここも楽しみ程度で問題はない。途中に傾斜が落ちて灌木帯(アリはジャングルと呼んでいた)を歩く部分があるのだが、ここで何度も木に頭をぶつけたヘルメットがあったので痛くないのだが注意が必要だと思った。 次第に傾斜も落ちラパンラタの山小屋が近くなると、ショートコースと合流してヴィアフェラータは終了となる。トレーナーのアリは英語が得意で、いろいろと話しかけて来た。掛け替えやロープワークがうまいだとか声をかけて自信と安心感を持たせるのもトレーナーの重要な役割なのであろう。慣れてくると日本の女の子がかわいいから、日本語を覚えたいなどと若者らしい話も出てきた。また、ロープを組んでいる間はずっと私のカメラを預かってたくさんの写真を撮ってくれた。 終了点からは一般登山道を約10分でペンダントハットに着く。ここでトースト、ソーセージ、ゆで卵、コーヒーを取るが高度の影響かあまり食欲はない。アリとローランドにお礼を言って下山開始。ラパンラタでアビスと合流して約3時間半でティポポンゲートに戻った。この日の行動は標高差800mの登りと2200mの下りでひざへの負担が大きく、持参したダブルストックが役に立ったと思う。ゲートで待っているはずの現地スタッフがいなくて30分ほど待たされる。アリが携帯から電話して管理事務所までは職員送迎車に乗せてもらう。管理事務所で、きれいな登頂証明書をもらってアビスとお別れである。 ここからは現地スタッフの友だちという人物が手配してくれた車でコタキナバルのホテルに戻った。当初の予定とは違ういいかげんさはあるが、途中のレストランでの食事代はいらないなどとフレンドリーな面もあり、いろいろな人の助けを借りて無事キナバル登山を終えることができた。テレマカシー。 |