巡り会いの国 インド
〜人生30年 節目の夏に〜
福 田 和 宏
「今までいい思いをしてきたのだったら、それを後輩に伝えるのが当然じゃないか?」村越先生のお言葉である。 「転勤することになりそうですし、この夏は休みがとれるときにフラッと一人ででか けようと思います・・・」そう言い放った自分がはずかしかった・・・。
2月、例によってサモサとユキトラをつまみに富蔵でいっぱいやった後、冷たい熊谷の空気に身も引き締まるような中で交わされたやりとりであった。
15のとき村越先生に出会った。あれからまた15年・・・。そして、今夏30を迎 えた。 有り難いことに15年もつきあっていただいたことになる。 辛さの中にも山の楽しさを初めて味わった高校時代。 シュラフに焼き肉の臭いがしみつき、スコップ片手に雪洞ほりにも夢中になった。 海外に目を向けられるようになったのが大学時代。ウシュマルでピラミッドによじ のぼった。ヒマラヤで圧倒される山並も見た。そして、忙しい・慌ただしいが口癖 だった就職してからの私に、豊かさのなんたるかを考えさせてもいただいた。黒ビ ールが腹にしみたヨーロッパ。花の都アムステルダム。石に水をかけながら本場の サウナを味わったフィンランド。シバの女王に思いをはせたイエメン。ヤリを担い だマサイ族。人類の第一歩オルドバイ・・・。
旅をしながら 山を歩きながら 温泉につかりながら ビール片手に・・・。行動 を共にする中で感じとらされてきたはかりしれない数々のこと・・・。
それでも、まだあまかった。誰のおかげでこれまでいい思いができたのか?村越先 生とおつきあいが始まって15年目にしてようやく多少なりともわかってきたように 思える。一人で海外に出かけることにもちょっぴり自信がある。でもそれだけでいい のだろうか。おいしいところだけつまんであとは・・・。
こんなわけで今回のセントラル・ラ・ホール隊の結成へと結び付けていただいた次 第である。
自分を支えてくれていた仲間達の存在にようやく気付いたのである。今回の旅でも 仲間の大切さを改めて感じさせられた。本場インドのカレーのおいしさを味わわせて くれ、カニシカで毎回お世話になりっぱなしのサンジャイ氏、マナリで私たちにヒマ ラヤ自然博物館の壮大な夢を語って下さった森田千里さん、トレッキングの手配から 私達の旅の安全まで親身になって考えてくれるサンペル君、山歩きを共にしたガイド のナナック氏をはじめとするスタッフ諸氏。また、会いたい。そして、半年、計画を 大事に暖めてきた仲間たち。苦楽を共にしてきた仲間たち。仲間たちがいなかったら ・・・。これまで未熟で気付かなかったことが多いのだが、今にしてその有り難みが 身にこたえるようになってきた。お世話になっている以上、もし自分にできることが あるのだとすれば・・・当然・・・。
後に悟りを開き仏陀となる釈尊誕生の地、インド。勝手な解釈だがそこには人を巡 り合わせる何かがあるように自分には思えてならない。私の仲間達はこのインドを通 して結び付いている仲間たちが多いという事実があるからだ。インドがなければ知り合 えなかったであろう多くの仲間たち。そしてまた、これからもインドへ出かけることによ て得られるであろう仲間たち。ぜひこれからもますます・・・。
もしかしたら私にとってはインドへ行くということはそれ自体が目的なのではなく一 つの手段なのかもしれない。インドへ行く・ヒマラヤへ行くということを通して、多く の仲間と知り合い、語り合い、勉強を重ね、視野を広げられてきたのだから・・・。
今回、幸せなことに30歳の誕生日をヒマラヤの山中で皆に祝ってもらった。しかも 嬉しいメッセージを添えて・・・。そのときこの世に生まれてよかったなあ、大袈裟に 聞こえるかもしれないがそう思った。実力不足だが、いくらかでも役に立てたといった 今まで味わったことがなかった喜びからかもしれない。そう思った。人生30年。ここ までこれたのも皆のおかげである。そう痛感する。
釈尊仏陀は自らの生命を含めた一切のものを喜捨することが仏の道だと悟ったそうで あるが、本当の喜びといったものは確かに他の人が喜んでくれることの中に見いだせる ものなのかもしれない。
教わったことは多い。その中で身についたことはこれっぽっちだろう。でも、これか ら先輩方の生き様を見習って、うんと体力・知力・理性を磨き直し、何か還元できるも のがあったらいいなあ。そう思えるようになった。これから仲間たちと共に真に豊かに 行動的に生きていけたらどんなにいいだろう。30年目の第一歩は自分にとって貴重な ものとなった。
村越先生の書かれた文章の一節が心にくいこんでいる。
だから、私が年をとって体力がなくなり、バランスが悪くなっても、私と山を歩くこ とでなにか得るものがある・・・人が私と行動を共にすることで、何かいいこと、楽し いこと、得ることがある・・・そういうものを持ち合わせなければならないと思って いる。
そのためにはどうすれば良いのだろう、今までの経験の蓄積なんてものはすぐ食いつ ぶしてしまう・・・やはり、これからも意識して学習し、新たな経験を積み、豊かな人 格を形成していくことなのだろうか・・・。たいへんなことだ・・・。
こう常々語ってくれる村越先生が、まるで仏陀のように思えた。人生30年、節目の 夏であった。