逞しさの塊 インド
児玉 浩子
この旅の第一の感動は、機内での映画「Jungle Book」に始まった。“モグリ”と“キャサリン”のブレスレットの日からJungleーroadまで。だから旅のノートブックは“Jungle Book”。
Jungle Bookより‥‥‥‥
デリーに着いた。ホテルへ向かうバスの前に、いた!牛が。本当に道路に牛がいた。薄暗くなった窓の外にテントの一群。『サラーム・ボンベイ』が甦る。ボンベイのストリート・チルドレンの生き方を描いた映画。あのテントの中でどんな暮らしを営んでいるのだろうか。それにしても首都だというのに、辺りが暗い、崩れたままの建物が何箇所も見える。(ここは日本じゃない、インドなんだ‥‥‥‥。)薄暗さが不安を呼んで、ちょっぴり帰りたい気分が過ぎる。
ホテルに着いた。村越隊長が迎えてくれた。少しホッとした。夕食のゲイロードに向かう車中、「百個くらい驚くことがあるよ。今日ガンジス河で子供の死体が流れて来たのを見たよ。」‥‥‥‥
翌朝(8月4日)バスを待つ間、ホテルのロータリーでリスやら首をツンツン動かしながら歩く鳥(デリーコッコと命名)やらナメクジをウォッチング。ターバンを巻き、 こんなヒゲで、 こんな靴を履いた背の高い目の大きなドアマンが、そのナメクジは足にはいあがって血を吸うんだと教えてくれた。ヒルだったのか。
私達のバスが動き出したのと同じ様にデリーの街も動き始めていた。その洋服が作られた時の色がわからなくなっている服を着て、素足でアスファルトの道を行く人、鉄の塊のような重そうな自転車をこぐ人、歩道に横になっている人、果物を並べたつぶれそうな屋台。クラクションを鳴らし何者をもおしやって大道を行こうとするこのバスに、ふんぞり返って乗っている自分は何者なのか‥‥‥‥。4人乗りの自転車夫の脚力は松本聖子なんかより凄いんじゃないのかな。道路には故障車なんて珍しくない。面白いのは、子供の頃花の種をまいた後、周りを石で囲ったように故障車の周りに石を並べている所。笑えないのは横倒しになって木っ端微塵に飛び散っているフロントグラス、その車の上に横になっている運送屋(?)2人。
次の街に入る。人と一緒にぶたがいる。制服を着た女の子たち。ピンクの上下がかわいい。ピンクがピンクとはっきり判るし、靴も履いている。水たまりの泥水でオートリクシャを洗車している。何だか息が詰まる。犬もゴミを漁る。デリーでは人がそうしていた。生きているインド。かっこなんかつけていない。命のまま。
この直線的な道路。北海道のそれなんて比じゃない。いくら走っても曲がらない。らくだ!! らくだが荷車を引いている。前の車が遅い、プゥ (おーい、まえの車よ、追い越して行くぞ、そのつもりでなぁ)プゥ !!インドの車はクラ クションで会話をする。プップー !!(早く寄ってくれよーー!)見事三重追い越し成功!
水牛達はどろんこ風呂に肩まで、いや首までつかって百数えているようだ。同じ水に入って子供らが遊んでいる。頭上に篭いっぱいの草や壷やら載せて歩く人を見たが、あのサリーの女の人の頭上の盆の物はどう見ても牛の糞の山!
5日、pm10:30 今日はよく雨が降る。今も雨音が。午後マナリのバザールへ出かけた。肉屋に牛や豚の生首が並んでいるとは知らなかった。乳呑み子を抱えた母親が手を出している。道端でピーナツを売る少年、指のない人がその手で喜捨を求めてくる。サングラスを買わせようと、どこまでも付いて来る男の人。お金とは!?仕事とは!?
6日am5:00 軽い頭痛。大雨?!と思って目覚めるが、それは河の音。外は明るい。良かった、良かった。熱は36度3分、平熱だ。食べれば治る。ここ「アシュラム=風来坊」から120歩上の温泉は諦めよう。今日から“お山”に入って行くぞ。
pm10:03 女物の傘を持って現れたのがガイドのナマックさん。植物に詳しい人物とのこと。僅かに触れただけで電気ショックに痛みが伴ったような刺激を受ける植物アルピカ(*1)に皆やられた。糸より細い電気針が腕を走っ
て行ったようだ。ナマックさんがメリゾナ(*2)の葉を採り、Drag,drag!!」と言って擦り込んでくれた。それでもまだピリピリ感が残っている。山のいたずら坊主、“アルピカピリピリ”!!
雨で服が濡れ頭痛と悪寒が近づいたが着られるだけ着てシュラフに潜り込み、セーフ。今夜のメニューは超豪華版。花柄のテーブルクロスに素敵なお皿があれば素晴らしいディナーに変身。‥‥‥‥外になにかの気配あり‥‥‥‥、カウベルの音、下から自主的に同行している犬が吠える。私のお腹もほえ始めた。
7日 お昼の後の休憩タイム。 今日初御目見得したのはシオガマ(*3)。山中で1輪、 *4 Geum elatum 渡渉の手前の河原で沢山。濃いピンクが釘付けにさせる B-44 ような鮮やかさだ。紅の花(*4)、オレンジのケシのような花(*5)。Poligonium Family だそうだ。
椿の葉によく似た葉を茂らせていているの(*6)は何だっけ。兎に角「No flowerで実はBearが食べるんだ」そうだ。But、実が生るなら目立たないにしても花は付けているだろう。Wall Natu(*7)も緑の皮を付けたまま落ちていた。幻の滝、雨期の今しか見ることの出来ないというスケールのでかい奴。Big stoneの右手、one、two、tree その3本の木はオーク。皮を剥いで家具にすると教えてくれた。
ここのお花畑のMainは俗名Rain grass(*8)、雨の中で輝く白さだ。花はイチゲに、蕾の状態はオダマキに良く似て可愛い。
トラノオもどき(*9)もあった。ミヤコワスレのようなジョウシュウアズマギクのような薄紫の花(*10)も可憐だった。
渡渉後に現れたお花畑の連続。行けども行けども、花、花、花、花。メインは黄色の Polygonium (*11)。ここまで来ても、クローバー(*12)が足元にあることが少し気になる。日本のオオバコのように人間の足によって運ばれてしまったのだろうか。
紅いつぶつぶの花(*13)。タデ科とふんでいるこの花はPolygonium ホリゴニュウム。花は薄いピンク、ベゴニアのミニといった風(*14)なのは、ナマックさんは“I don't know.” 渡渉からの消耗と寒さを一段落させてテントから顔を出 すと雨が上がっていた。Wild carrot(*15)、ニンジンの葉に似ていたと思う。図鑑を見てもはっき 絵なし り思い出せない。花がドライフラワーのような 良く似ていてテントサイトを占領していたのはWild spinch(*17)。
Himalian Blowoson、ドラ¯グフラワー(*18)。シソ科かな、タッチミーノートと発音していた(*19)]。スケッチがずさんで、図鑑を見ても思い出せない。Camerinia ピンクのサクラソウ(*20)。Batula tree(*21)皮を剥ぐと紙のように書ける。少し上にある木を指して教えてくれた。Rhododerdran。指しているのは森林限界の木らしい。日本ならハイマツか。いやいやわかった、石楠花のことだ(*22)。
シオガマの葉に似ているのをいくつも見る。これは黄色い花(*23)。イブキジャコウソウ(*24)。4つ葉シオガマにそっくりの葉(*25)。シソに似ている(*26)。
pm9:30 Himalaian green finch川の上を飛ぶ赤い鳥。ナマックさんに色々教えてもらった。明日も素敵な花達に会えますように。渡渉がありませんように、‥‥‥‥うっ!!今夜も近くにカウベルの音。本当に近い!‥‥‥‥テントを鼻面で押してきた!!寿命が5秒縮んだよ。はいはい、電気 を消しますよ。
8日 pm11:25 寝付けずlight on。牛だか馬だかへの光害は大丈夫かな? お土産のリストを作り、昼間の花を思い出す。水辺に群れるわさびの葉に似た黄色い花(*27)はMrshic‥‥‥‥?肉厚の葉。ピンクの小さ *17 Rumex *18 Stachys *20 Primula な花をかたまって咲かせるのかな patentia mellisaefolia involucrata (*28)。 A-450 A-429 B-8 白の小さい花(*29)、花びらに黒い線が入っている。
紫色のランのような花(*30)。エナファリスニュージニア(*31,32)。エーデルワイスに間違え易いそうだ。エーデルワイスもあった(*33)。りんどうの葉(*34)。赤い実に白い花が下を向いている(*35)。コケモモかな。イワヒゲ(*36)。濃い紫の花(*37)、Family Lonpastと聞こえた。ガラガナ(*38)、Wild ester like mint。
ブルーポピー(*39)!!茎のトゲはかなり痛い。ブルーポピーのピンク版(*4O)。黄色いポピー(*41)。
マツムシソウにそっくりで花が白(*42)。図鑑には載っていない。ピンクの可愛い花が5〜6個かたまっている(*43)。球状、花火のような白い花(*44)。薄いピンク一色のシオガマ(*45)。氷河の下、白い雪渓と白濁した川に映る鮮やかな黄花シオガマ(*46)の群生は見事!!
9日am6:40 今朝はまだチャイ・コールがかからない。
初御目見得の“チャパティ”とは、砂糖抜きの固めのクレープのような物なり。ジャム良し、ケチャップ良し。私のお腹はまたもや良くない。 今日見た花の一部。河原を彩る鳳仙花に良く似たピンクの花(*47)。ネコジャラシに良く似ている、花の部分が紫がかっている(*48)。リュウキンカ(*49)。
フウロソウ、色はピンク(*50)。 フウロソウ、薄紫(*51)。 フウロソウ、白(*52)。フウロソウ、小さい花(*53)。つまとり草に似たごく小さい白い花、花びらが7枚ある(*54)。図鑑にはない。ウツボグサを華奢にした感じの紫の花(*55)。
10日、火曜日 今日は隊長のBirthdayだって。おめでとう!今朝はカッと晴れて、一気に全てを乾かした。乾いた物を着られるって、こんなに気持ちのいいものだったんだね。太陽の眩しさの嬉しいこと!
このテントサイトから見える三角錐の4つの雪山にやたらと魅かれる。雲と隠れんぼしているところがまたいい。 今夜のテントサイトはどろchan訪問の可能性が高い所とのこと、訪ねてきませんように。 今pm10:35を回りテントは灯りを消し声もやみ、聞こえるのは犬の鳴く声と川の流れ。さっき上の岩の所へ月と雲のharmonyを撮りに行って驚いた。もう2〜3段上の岩に羊達が立ちすくんでこっちを見ている(ように見える)。インディアンにぐるりと囲まれた西部の開拓者の気分だった。(私はインディアンの言い分をとっているけどね。)
テントサイトのすぐ下に2カ月だけの山暮らしをしているという家族に会った。幼稚園くらいの女の子2人と白ツメクサの *47 Epilobium 花の首飾りやお絵かきで少し遊べた。明朝写真を撮る約束をし latifolium て別れた。彼女らの物事をまっすぐに見つめる瞳の輝きが嬉し B-53 かった。
11日 金曜 朝食の後、ナーズン・ドルマと遊ぶ。久々のぐるぐる回しは息が切れる。それにここはまだ高いんだ。渡辺君達も遊びに混ざる。彼はジャグリングのチャンピオンだ。すごい!手軽な石でポン ポン ポン!
赤ちゃんをおんぶしている彼女は20歳のアマン(母親)。可愛いお母さんだ。2カ月だけの山暮らし。羊飼ではないそうだ。ナマックさんにナーズンの街の住所を聞いてもらった。彼女らにバイバイして山を下りる。ちょっと寂しい気分。バス道を少し歩くと、ナーズンのお母さん、20歳のアマン、彼女の弟達がいる。道路の修理や拡張が2カ月の仕事らしい。
彼らが整えてくれるバス道を歩きに歩いて、今バスの中。大型バスの車幅一杯の山道をマナリに向かう。ギアを変える度に止まってしまうそうな不安なバス。途中タンクローリーと対行する。それとの間隔は2センチくらい。こんな度胸のあるドライバーは見たことがない。空には鷲?鷹?上の山にいる牛の横に降り立つ。翼を拡げると牛よりはるかに大きい。あの背におんぶしたら空中散歩が出来そうだ。
迫力の岩山を右に左にしながら、バスは人里に近づく。森田さんに「ただいま!」「おっ、生きて帰って来たか!!」 12日 土曜 「風来坊」図書より‥‥‥‥ 高山放牧草原は時にきれいな花が食べ残されて美しくなります‥‥‥‥。なるほど。花の図鑑で名前を確認してみる。〈*56〉見た場所は定かでない。〈*57〉〈*58〉ナーズンのテントからバス道のあたり。ブルーベリーに似ている。〈*59〉山に入った日に出会った。マムシ草。〈*60〉*16、*17と同じテントサイト。花は咲いておらず、まるで山のウニ。 *56 Silene 〈*61〉*20と同じテントサイト。
〈*62〉今回の旅のtopを目指した日。top手前、6月が開花シーズンだそうだ。濃い紫で際だつ美しさ。ナマックさんも嬉しそうに指さしていた。プリムラ‥‥さくら草。 〈*63〉山を下ったバスが里に近づく頃、一面ピンクに彩っていた。
〈*64〉同じ花の形だが、少ない。*63の黄色版。 〈*65〉花を段々に咲かせていた。
〈*66〉ウサギギクに似ている。
〈*67〉紫の花びらに照りがある。
13日 日曜 “I'll never forget your kindness.”“ OK !!”とナマックさんが握手した手を両手で包んでくれた。何時の日にかナマックさんに日本の山を案内してあげたい。さようなら、マナリ。森田さんとはアシュラムの入り口でお別れ。
14日 月曜 インドバスの Near miss にもすっかり慣れた。昨夜の夜行バスは、ほとんどラリー車の世界だった。デリーのカニシカホテルに戻ってきた。ドアをノックする音に靴も脱がずに眠りこんでいた自分に気づく。その後また眠る。夕食は街へ繰り出してカレー尽くし。
am2:00 昼間眠りすぎた弊害だ。この時間になってやっと外のクラクション会話が静か目になる。
15日 火曜 Independent Holiday in Agla
今日は外国人が全くいない寺へ連れて行ってもらった。強烈な匂いとお祭りの雑踏と、ぶつかりそうになる牛と暑さの中で息も心も苦しくなった。インドで安心感に浸れるのはみんなと一緒の夕方の空いてきたタージマハルと「風来坊」と5つ星のホテル。
16日 水曜 アグラからジャイプールへ
道行く車は、バスも乗用車もどれも乗車率200%。今日の我々のバスも100%だからそれほど引け目は感じないで済む。この道を横断する物は孔雀、牛、水牛、人、鳥。動物の事故も多かった。今日もホテルはfive stars。インドでの元気の素だ。ディナーはカッテージ・チーズ入りのカレー。豆腐を思わせるこのチーズ、病み付きになりそう。星を眺めながらのswimmingの心地よいこと。
17日 火曜 ジャイプールからデリーへ。インド観光 ゴールデン・トライアングルの3本目の直線を結ぶ日。
18日 金曜 午前はショッピング。午後オールド・デリーを“はとバス”で回る。ガンジーさんのお墓参りが出来た。あまりの日ざしの強さに雨傘を日傘にした。
19日 土曜 リキシャに乗って街巡り。半日だけど大前君方式に挑戦。アラーイの塔の高いこと。雲の上に乗りたい人が造らせたのだろうか。ここの棺が置かれている部屋も豪華絢爛ではないけれど、タージマハルに劣らない美しさだ。
今日でインドともお別れだ
さようなら、指のない人々
さようなら、足のない人々 嘘を付くことが平気な人々
さようなら、花売りの男の子 幼き母子よ
さようなら、クラクションの街よ
インドの灯がサファイヤの輝きに見える
あの輝きは 山で出会ったナーズンの瞳だろうか
ナマックさんやソナムさんたちの親切だろうか
逞しく生きている一人ひとりの輝きかも知れないね
おわりに
インドの一瞬に百年間を感じた。素足の人から車社会。百年間が渾然一体となっている、正にJungle的な国だった。森田さんのお母さん曰く、「日本だってつい最近まで家畜と共に暮らしていた。それほど差はない。」その頃の日本は今以上に本来の豊かさをしっかり抱えていたと思う。小学6年生の国語の教科書に「生きている土」という説明文がある。“土を殺し”始めて久しい日本のようにならない前に、インドの小学生の教科書にも載せて欲しい文章だ。日本の子の様に窮屈さのないカリキュラムで、教育環境が整って行くことを願う。ナーズンに宛てたヒンズー後の単語を並べたに近い手紙が、文字を書きたいという要求を持つきっかけの一つになったら嬉しい。
山では若葉マークの私が、こんなスケールの大きな旅をすることが出来たのも、村越隊長率いるこのトレッキング同人の歴史と、c隊の隊長・福田君そして青木君、松本君、“大人”の皆さん、“学生”の皆さんのお陰と感謝しています。
ダンニァバード!