8月7日の記録 高山病体験記
前川 哲
昨年のヒマラヤトレッキングに参加できなかったので、一年待って、ようやく今年インドへ行くことができた。旅行中、様々な経験をしたが、最も印象の深いのは、8月7日・8日のレーでの経験である。私は、生まれて始めて入院した。
8月6日
飛行機でレー到着。標高3500Mの高地に降ろされた。「空気が薄いな」とは感じたが、特別身体に異常はなかった。ホテル到着後、しばらく町に散策に出たが、心配だった高山病も出る気配はなく、これなら高所でも大丈夫であろうとたかをくくっていた。食欲も十分あったので、しっかり夕食を食べることができた。
8月7日
日の出前に、吐き気で目が覚める。7月に富士山頂で泊まった時に出た症状と同じである。トイレに行き嘔吐を2・3度繰り返す。朝食のため食堂へ行くが、見ただけで吐き気がする。結局何も手をつけずに部屋へ戻る。朝食後、他のメンバーは、ゴンパ巡りへと出かけた。私は一人で部屋で安静にするが、相変わらず吐き気がおさまらない。嘔吐を繰り返す。昨日の夕食が全く消化されずに出てくる。
10時ごろより下痢が始まる。徐々に体力が落ちてきて、吐くのがつらくなる。嘔吐するたびに、めまいがする。体は水を欲しがるが、いかんせん胃が受け付けない。飲んだ分だけしっかり出てくる。体内の水分が抜けていくのが自分でもよくわかる。だんだん意識がはっきりしなくなる。これはまずいと思い、助けを求めに他のメンバーの部屋を回るが誰もいない。しかたなく部屋へ戻り、嘔吐・下痢を繰り返す。
何とか水分を取りたい。湯なら大丈夫ではと思い、最後の力をふりしぼって、ホテルのレセプションを目指す。足に力が入らない。壁にもたれながら部屋を出て、倒れそうになりながら部屋に鍵をかける。廊下をまっすぐに歩けない。何とかレセプションに無事着く。部屋の鍵を見せ“Boild water,please.”と告げて、再び長い道のりを戻る。
しばらくして、お湯が運ばれてくる。湯を受け取り、チップを渡すと、“Doctor? Doctor?”と聞いてきたので“Yes,Yes.”と答え医者を呼んでもらう。湯を少量飲むが駄目である。摂取できない。相変わらず下痢と嘔吐は止まらない。手足がしびれ始め、まともに動けない。これは死ぬのではと、ふと思う。医者はなかなか来ない。旅行保険の手引きに、自分の症状のチェックを入れ医者を待つ。12時ごろようやく医者が到着。医師と助手の2人。とりあえずひと安心である。彼らは聴診器で脈をとる。初めてみるやり方である。診察を終え2人で何か話しているが言葉が理解できない。立ち上がって“Rest,rest.”と言って2人は部屋を出ていってしまった。再び一人。しばらくして、デリーから後発のメンバーが到着。私は今日入院するのだと告げられる。
仲間が来たという安心感で、気が抜けたため、入院中のことは良く覚えていないが、次のことだけは良く記憶している。
何本も点滴を打ったこと。看護婦が献身的であったこと。回診にくる医者が毎回違うこと。
8月8日
退院。診察費、入院費は請求されなかった。病院の名簿に書くために私の宗教を聞かれた。とりあえず“Buddhist.”と答えておいた。ホテルへ戻り一日安静にしていた。